【第66号】市中行進

人間愛で結ばれた美しい世の中にしてください━。1960(昭和35)年6月21日、民主主義の擁護を訴え、母校が全校を挙げて市中行進をした際のスローガンの一つである。いまから55年も前。敗戦から15年しか経っていない年の思索と行動だった。

生徒と教職員合わせて1200人余の行進は正門を出て東に向かい東町、大橋通りを南下する。旧電車通りを西に曲がり本町、大名町を通り松本城の堀端を反時計回りに進んだ。母校に帰るまでの2時間半は「無言の行」の様相だった。

行進の6日前、日米安保条約反対を叫んで国会に突入した全学連主流派が警官隊と激しく衝突した。東大生の樺美智子さんが騒乱のうねりにのみ込まれて亡くなっている。

集団的自衛権の行使容認へと大きく舵を切った国。安全保障法制の改定を経て、自衛隊は海外での活動範囲を広げることになる。憲法論議では「創憲」「加憲」を主張する人たちの後景に9条見直しの本音が透けて見える。

戦争と平和。未来を託す現役生は、現代をどう受け止めているのだろうか。行進の標語は他に「民主主義を尊重する平和な社会にしてください」と「安心して勉強できる明るい社会にしてください」があった。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎