【第40号】藤本校長の桜

満開の桜で学びやを彩った大木に挟まれて、身の丈を越す高さに生長した若木も花を咲かせた。母校の前庭やグラウンドの隅、東門の脇などに根付いた約20本の春だった。

第18代校長として5年間在任した藤本光世さんが、離任した8年前に植えた。いま長野市篠ノ井の名刹・円福寺の住職を務め、系列の児童養護施設や幼稚園の運営にも携わる。

着任してまず校内清掃に動いた。始業前の約1時間半、トイレから廊下、昇降口、学校周囲の道路へ。「環境が良ければ人は自然に育つ」との信念による。「校長がそんなことをするものではない」との校内の声を、ほほ笑みで受け止めた。

校舎の移転当時に植えられたとしても既にざっと80年。樹勢を見た藤本さんは「朽ちる日」を思ったそうだ。「深志の桜がいつまでも咲き誇ってほしい」と苗木に託した願いは、教育の理想を希求した在職中の深い思いでもあった。

「深志の底にある輝きをどう光らせるか、が仕事だった」と振り返る。環境美化による生徒の向学心の向上は、東大に15人を送り出した年に象徴される。人が嫌がることを進んでする人間は、自らの弱さを克服できる。人も桜も風雪に耐えてこそ花実を付ける倣いである。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎