【第26号】天馬の星座

松本中学・松本深志高校陸上競技部の創部100周年記念誌がOB会「天馬会」の手によって刊行された。その一字一句と行間から、群像の熱く深い思いが伝わってくる。

天馬。ペガサス。「天馬会」の名は、長く母校教壇に立ち、陸上部監督を務めた「上忠」こと故・上島忠志教諭が名づけた。機関誌「天馬」創刊の際、好んで歌っていた松高寮歌「天にうそぶく」の2番「雲にうそぶく槍穂高/天馬の姿勇ましき」から取った。

陸上競技部は大正4(1915)年には存在していたとされ、914人の在籍記録が残る。天馬の星座の1人に、文化勲章を受章した漆芸家の高橋節郎さんがいる。県競技会100メートルで優勝した当時のユニフォーム姿の写真が、記念誌の1ページを飾る。

東京の自宅を訪ねた21年前、高橋さんは1階の応接間と2階のアトリエの間の階段を、作品を軽々と抱えて行き来しながら故郷と芸術を語った。元気な姿に心と体を鍛え抜いた若き日を思った。

コンマ1秒、1センチに挑んだ駿馬たちは、時代の風に向かって飛翔していく。「部史に残るだけの記録を残し得ず、しかも笑って卒業していった数多くの人々の努力が隠されていることを銘記すべきであろう」。「天馬」創刊号に記された編集後記に「上忠」の哲学を見る。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎