【第6号】山村の誇り

国道19号を東筑摩郡生坂村に入ると、東側の山地にラクダのこぶのような形をした山稜が現れる。標高990㍍の京ケ倉(きょうがくら)と、980㍍の大城(おおじょう)である。変化に富んだ約5時間の縦走コースを仲間と一緒に歩いた。北アルプスを借景に大きく蛇行する犀川と集落を見下ろす眺望に息をのんだ。

有志が6年前「大城・京ケ倉を広く世に出す会」をつくり、手弁当で登山道の整備をしてきた。トレッキングツアーも催した。口コミで人気が広がり、登山者が年々増えている。

京ケ倉の山頂に村出身の法学者加藤正治の句碑が建つ。研成義塾を創設した井口喜源治や新宿中村屋の創業者として知られる相馬愛蔵と同じ松中7回で、東京帝国大学卒。日本国憲法の制定に携わり、中央大学総長を務めた。碑には「吾里や飾り兜を姿にて」と刻まれている。俳号の「犀水」は犀川に由来する。

実は地元でもあまり知られていない存在だった。頌徳展が企画されるなど村ゆかりの偉人を顕彰する機運が高まる。かけがえのない故郷の山の高みを見上げるように、村の人たちは加藤の足跡と遺徳をしのぶ。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎