【第236号】記憶障害のリハビリテーション、記憶とは?

原 寛美(24回)
日本スティムレーションセラピー学会副理事長
藤森病院リハビリテーション科

 高校卒業時に、卒後50年後、在校生に講演授業を担当できるようになるなど夢にも考えていませんでした。卒業の昭和47年は連合赤軍による浅間山荘事件など殺伐とした事件が続いた渦中にあり、将来に漠然とした不安を抱えての卒業と大学受験であったことを思い起こします。大学では入学式もありませんでした。

 卒業50周年記念事業の尚学塾特別授業のテーマは、医師人生のなかでライフワークの一つとしてきた「記憶障害のリハビリテーション、記憶とは?」でした。

 京大医学部卒業後に東大医学部附属病院リハビリテーション部で研修をする機会を得ました。そこでは、くも膜下出血術後に重度な記憶障害が残り、就労できなくなくなった壮年期の患者さんを何名も診療する機会があり、鮮烈なインパクトを受けました。当時は記憶障害の検査法はおろか、リハビリテーションの方法論もありませんでした。記憶障害のリハをライフワークの一つとしようと考える契機となりました。

 2002年に記憶の世界的な検査法である「日本版リバーミード行動記憶検査」を出版。写真はその検査法の原著者が京都に来日した1990年のものです。検査法の確立によって、重症度に応じたリハビリテーションの方法論が次第に明らかとなってきました。例えば、間隔伸張法と言われる想起する時間間隔を徐々に延長していく学習法などです。また記憶障害を含む高次脳機能障害の国の診断基準が2004年に確立され、福祉制度も前進しました。

 記憶障害者へのリハビリテーションの考え方は、健常者の日常生活にも適用できる内容を含んでおり、尚学塾特別授業の中では、受験期に役立つ効果的な記憶法を解説しました。ブロック学習vsランダム学習、朝型学習vs夜型学習、復習型vsテスト型、固有名詞の学習法、睡眠による学習効率の改善、有酸素運動による海馬を含む脳機能活性化などです。こうしたエビデンスに基づく知見のいくつかは、今日では公文式学習法などにも取り入れられてきています。テスト前に徹夜勉強していたことが如何に徒労であったか、高校時代に知っていれば良かったと思う現在です。

 また記憶障害を主人公とした小川洋子さんの小説「博士が愛した数式」を取り上げ、残存している才能を引き出すことが、記憶障害リハの基本であることも説明しました(書評、ノーマライゼーション障害者の福祉2005年7月号)。

 受講した生徒の皆さん、科学的で効果的な記憶法を受験勉強と今後の人生に生かしてください。

1990年、バーバラ・ウィルソン夫婦(中央)、綿森淑子先生(左)、筆者(右)、京大医学部芝蘭会館にて