筆者:本郷美佐緒(44回)
(有)アルプス調査所理学研究室長
思いがけず、尚学塾「特別授業」を担当することになり、私の曲がりくねった30年間(昔の地球環境の移り変わりを読み解く研究者を目指して武者修行を重ねた後、ジオ・ドクターになるまでの道のり)を振り返る機会をいただいた。
深志生の頃はどう過ごしていたのかとアルバムをめくりつつ、学校ウェブページを拝見した。教育基本方針の中に「芸術を重んじ、必修とする」との主張が目に止まり、ふと美術で製作した「一版多色版画」、「油絵」、「木彫」や「土笛」などが頭に浮かんだ。今、あらためてこれらの製作物を振り返ってみると、絵画ではモチーフを2次元平面のキャンバスにいかにして描き表すか、彫塑では立体的な3次元のまま作品として完成させることができるという違いに気付き、ハッとした。というのは、私の働く地質コンサルタント業界では、調査・研究の成果である地層の空間的な広がり方を2次元情報に分解し製図して納めるのが長いこと当たり前だった。しかし、昨今よく耳にするDX化の波がやってきて、奥行きなどを立体的に表現でき、回転させて360度の方向から考察した地層モデルを見せることができるプログラムが普及してきている。深志生の頃、地学準備室で見たパソコンはカセットテープにデータを保存していたのだから、この30年でずいぶん様変わりしたものだ。私の講義を受けた在校生諸氏が「特別授業」をする頃には、もっと進んだ解析やシミュレーションができるようになるだろうと想像すると、自然災害への予測精度や災害復旧の対処方法も良くなるはずだから、期待感でいっぱいである。
2棟の天井が高く北側からの明るい光が差し込む美術室で私の彫った「メビウスの輪」。岩石の彫刻家でもあった渡会先生はどのような意図で裏と表の区別が無い曲面をモチーフに選んだのだろう?と考えを巡らせてみる。“サステナブルな社会”を世界共通の目標に掲げているなか、専門バカな私はねじれた曲線を美しく感じ、地層を掘って取り出された化石たちが過去を雄弁に語り、地球環境がねじれのように変化していく様をたびたび目にしている。美の彫塑をきっかけにメタファーを思いつき、想いを新たにした。