【第229号】冬の朝のように澄んで張り詰めた、美しい時代

筆者:合津直枝(24回)
テレビマンユニオン

 脳の容量が徐々に減っていくから、不要と思われるものはどんどん削除する。だから2、3年前の仕事の詳細は、すっかり記憶の彼方だ。しかし、どういうわけか半世紀前の深志での日々は鮮明で、キラキラと光を放っている。
 卒業50年の「特別授業」を、というお誘いで、昨年教室や講堂を訪ねる機会を得た。アーチ型の天井、重厚感ある階段、講堂…半世紀前の日々がまざまざと甦る。1時間に1本の大糸線で大町から通った3年間。北松本駅からのぼりの坂道を20分ゆく私。座布団を脇に挟み下げ鞄を持って教室を移動する私。…今から思えば、驚くほど硬い表情の自分が思い浮かぶ。「何者でもない自分がこの先どうなっていくのか…」不安でいっぱいだったのだろう。(50年後、このように厚かましい大人になることも知らずに)
「もっと気楽に気楽に」と当時の自分に声をかけてあげたいけれど、冬の朝のように、澄んで張り詰めた深志の時代を私は愛している。美しい時代だと思っている。
 在校時、松中69回卒業の大先輩・萩元晴彦さんの講演を聞いた。当時TBSから独立し、制作会社「テレビマンユニオン」を立ち上げたばかりの萩元さん、その話の「熱」にたちまち焼かれた。数年後、「テレビマンユニオン」を仕事の場に選んだのは、ただの偶然ではないだろう。年の離れた同僚となった私は、萩元さんから多くのものを学んだが、『あらゆる新しいこと、美しいこと、素晴しいことは、ひとりの人間の熱狂から始まる』という萩元さんの言葉は、仕事人生の指針となった。
 半年かけて制作した渾身のスペシャルドラマの画面に組閣情報を流され、切なく怒りが込みあげ、映画(「幻の光」)をつくろう!と決意したこと。その映画が海外で大きな賞を受賞しても、すべてが監督の手柄とされプロデューサーである自分が抹殺され、ならば、映画を監督しようと決めたこと。連続ドラマ10回すべてを演出・脚本・プロデュースしたこと。…すべてが「私の熱狂」からスタートしている。
 卒業50年の「特別授業」は、萩元先輩の言葉に導かれ仕事をしてきた数十年をお話させていただいた。この先どんな試練があろうとも、「人生の主人公はあなた自身であること」「自分の道は自分でみつける」ということ。1時間の講義のあと、ひとりの女子生徒が立って、涙を浮かべ感想を述べてくれた。張り詰めた顔の女子生徒だった。先輩から受け取ったバトンを次に渡せたようで、こころが少し暖かくなった。