【第170号】私立高校無償化

遠い記憶をたどると、小学校に入学した当時、教科書は無償ではなかったような気がする。改めて調べてみると、義務教育における教科書無償化は昭和38年度に小学校1年について実施され、以後学年進行でおこなわれたようだ。

高校の頃は、授業料を毎月事務室の小さな窓口に届けた。ときどき使い込みをして授業料を工面するのに苦労した記憶がある。

大学まで国公立の学校で学んだため、予備校に就職し授業料を受け取る側になりお金を得ることにある種の抵抗を感じた。

文科省のホームページによると、2020年4月から私立高校無償化が実施されるようだ。正確には保護者の年収590万円未満の生徒は実質無償化が実施される。私立高校に通う生徒が安心して勉学に打ち込めるための施策とされている。多くの家庭にとって歓迎される内容であるが、このことを生徒がどのように受け止めるのかいささかの心配もある。

おそらく大半の生徒は、この施策とは関係なく勉学に励むであろう。しかし、「どうせタダだから」「自分が望んだ訳ではないのだから」と目的もなく過ごす生徒が増えるのではないかと危惧される。「ただより高い物はない」と教えられてきた者からすると、裏を考えたくなる。消費税増税が財源に充てられるという話も聞く。

いずれにしても、私立高校に携わる者としては、生徒にどのような力をつけて社会に送り出すかという当たり前の原点を確認しなければならないと思う。同時に「うまい話には裏がある」を肝に銘じておきたい。

筆者紹介 : 水野 好清