【第97号】「起居有禮」

深志第22回卒業30周年を記念して旧二棟階段の板から製作された「起居有禮」の説明を小林俊樹先生が書かれている(平成12年10月14日)。以下、これを参考にまとめてみた。

昭和24年(1949)6月5日、深志高校講堂で扁額「起居有禮」の掲揚式が行われた。長さ270cm、幅90cm、厚さ9cm、重さ200㎏に近いケヤキ材の扁額である。これは、小林有也校長の35回忌を記念したものだ。

扁額の4文字の出典が問題だった。俊樹先生は、この真偽を究明する作業に入った。中国古代の詩経の言葉のなかには、4字熟した句は見た限りの典籍にはなかった。「有禮」と「起居」それぞれの語はあり、能書などにも「起居」の語は多いという。

小林有也校長はみだりに揮毫などした人ではない。原稿も書簡も少ない。ならば、どうしてこの字句ができたのか。

その謎が解けた。深志高校の校長室に現在保管されている小林有也の直筆書簡から、扁額の文字と4字句が生まれたのだ。当時の岡田甫校長や教師数人が鳩首思案の結果、書簡冒頭部分の「起居」を選び、小林有也の名の「有」と、書簡の追伸部分の「禮」を合成させた「有禮」が浮かんだというのだ。「いわば深志教師陣独創の箴言だったのである」と俊樹先生は結論づける。

「岡田校長流に言えば『真理至上善を探求する同心者としての師弟信頼と愛』(人間尊重)であり、行住坐臥心すべき、人間形成の根本義なのである」と、俊樹先生は説く。

この4字句をトレースして彫り上げたのが、彫刻家上条俊介氏(松中40回)であり、板代だけで当時5万円はしたという。

「起居有禮」は、「起居に禮有り」と読んでいいのか。「起居」は、「立ち居ふるまい。日常の生活」(『広辞苑』)とある。生徒の挨拶に対しては生徒より深く頭を下げて返礼したという小林有也校長の姿が浮かぶ。

講堂に行った折には、あらためて「起居有禮」をみてみたい。

筆者紹介 : 小松 芳郎