【第54号】箱根余情

1泊2日で箱根を巡った。深志21回生の卒業45周年記念事業の締めくくりだった。仕立てた大型バスは早朝から酒精に揺れ、カラオケの歌声に乗って走った。買い物や大涌谷観光を楽しみながら会場に着いた。

関東方面に住む人たちなど約40人が宴席を囲む。卒業後初めて会った友。在学中一度も話したことのなかった女性。鼻っぱしの強さを言葉じりにとどめた彼。円くなった人。かつてのモテ男やマドンナにも等しく刻み込まれた歳月を思った。

校歌の斉唱で盛り上がった宴の翌日は、ゴルフ組と観光組に分かれて親睦を深めた。専門職に就いた秀才も、学びの苦しみに音を上げた身も、分け隔てなく打ち解けた。

散会後の帰路は、新春恒例の東京箱根間往復大学駅伝競走が行われる急坂だった。選ばれた健脚が毎年、果敢に挑む上りと下りの難所である。テレビ中継で見覚えのある地名や交差点を過ぎる。箱根登山鉄道・小涌園前の踏切も通った。

エンジンブレーキを利かせてもバスは下りで加速する。往路よりも復路の景色の方がせわしく移ろう人生に似る。「まだ」と「もう」が交錯して車窓に映る。浮いて騒いだひとときを経た車内は妙に静かだった。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎