高校に入学した約半世紀前、新入生を部活動に勧誘する手づくりポスターの中で、ひときわ目立つ1枚があった。ゴーロア協会だった。赤塚漫画の傑作「おそ松くん」に登場するフランス帰りのキザ男「イヤミ」が得意のポーズを決めていた。
さきごろ亡くなった同窓会長の中嶋嶺雄さんは、ゴーロア協会の結成リーダーだった。3年生のとき仏語と仏文を学ぶサークルとして立ち上げた。とんぼ祭で「凱旋門」をつくったり、「シャンソン」と名付けた小冊子を発行したりした。ゴーロアの名は古代フランス人(ゴール人)に由来する。「会」ではなく「協会」としたのは結社を気取った若き日の思いの表れ、と聞いた
中嶋さんはセーヌの風景を描き、参加を呼びかける張り紙に使った。遠景に建物とエッフェル塔を配し、画面中央にアーチ橋を置いた。しゃれた構図に収まった川のほとりで紳士と貴婦人が憩う。後年の著書『リヴォフのオペラ座』(文藝春秋)の表紙にもなった。
ユニークな同好会の生みの親は仏語ではなく、中国語と英語に関わる学究世界に尽くすことになる。グローバル時代の知識基盤社会を見据えて発言を続けた。その視座と論述の原点は紛れもなく、花の都のエスプリに惹かれた高校時代にあった。