【第219号】渋沢栄一、松本中学で講演

「渋沢男爵は、十七日午前長野出発十二時十四分松本駅に着し、夫より松本商業会議所に立ち寄り、南小林に於て商業会議所議員と昼餐を共にし、記念の撮影をなし、午後二時より小学校源池部の講演会に臨む」「同日午後五時より、魚網に於て官民合同の歓迎会を開く、浅間温泉目の湯に投宿し、十八日は滞在して午後二時より松本中学校に至り、各中等学校生徒の為に講演し、其前後に於て市内各所を参観」と、大正6(1917)年5月の『信濃毎日新聞』が報じている。
 渋沢は、この年5月14日午後3時22分に汽車で小諸に着き、翌日午前中に小諸小学校で開催された北佐久連合青年会春季大会で講演。午後には上田に、16日には長野に行き、午後5時から蔵春閣で1500名を前に講演をした。
 渋澤栄一は、5月18日の松本中学校の講堂で、同校と松本商業学校生のために訓話をおこなった。このときに語ったのは、「今の青年が最も心がけなければならないこと」で、つぎの4点だった。①大きな理想を持って、将来の活躍の準備をしよう。②その理想は突飛なものではなく、自分の天分と境遇とをよく考えること。③青年の態度は常に自尊であるべきで、いやしくも卑屈であってはいけない。④どんな問題に出逢っても、常に孝行の心を忘れてはいけない。さらに今の青年について、「今の青年にも意気のある者もいればない者もいる。昔の青年でもまた同じである。昔と今では時勢が違っているため、今の青年はいかにも意気がないように見えるだけだ」、と昔の青年と比較して語った。
 実際には新聞記事の日程とは異なったが、渋澤は講演を終えて、松本駅発の列車に乗る。松本商業会議所会頭今井五介ら会議所役員全員が一緒に列車に乗り込み、塩尻まで送った。土産は、片倉製糸の製品である一代交配種で織った羽二重1反と、美篤細工の鞄と籠だったという。
 この日、岡谷で下車し、平野農蚕学校で講演し、夕方岡谷駅を発って東京に戻った。

筆者紹介 : 小松 芳郎