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蜻蛉乙女(あきつおとめ)
深志同窓会

第5回 乙女の輪 うたごころ

32回卒 野尻 光

中学・高校・大学と部活はずっと合唱部だった。
 中学時代、最大の目標はNHKコンクール。私の所属していた中学は古くは全国大会で入賞したこともある常勝合唱部だったのだが、肝心の中3の時まさかの地区大会敗退!それまでの人生最大の負けを喫した。
 高校に入ったら、その時の宿敵と同じ部活に。しかし、彼女たちは皆、気さくで熱心、一緒にいて楽しく信頼が置けた。ああ、負けて当然だったんだ、と。高校時代の最大のイベントはとんぼ祭公演。作り上げる喜びを存分に味わい、昨日の敵とは生涯の友に。
 大学でもやっぱり合唱団に属したが、社会人になってからは、途中日本を離れていた時期もあり、20年近く合唱とは遠ざかっていた。そんなころ「サイトウ・キネンで1000人合唱の舞台に立ちました。」という年賀状を友人からもらった。小澤征爾さんの指揮でSKOをバックに歌ったという。「羨ましい!」歌いたい気持ちを刺激された。その後Uターン、松本へ。


深志教育会館での練習風景

深志教育会館での練習風景

松本は「楽都」を謳っていて、音楽に関わりたい人にとって素晴らしい場所だ。私もこの地の恩恵を受けながら、少しずつ「うたごころ」を遊ばせ始めた。
 深志の音楽部卒業生と現役生からなる「志音会」。2006年に母校の創立130周年を祝して記念の音楽会を開いた。120周年の時は遠方にいたことを理由に失礼してしまったが、このときは喜んで参加を決めた。演目はモーツァルトの「戴冠ミサ」。久しぶりにオケをバックに歌える喜び。合唱も10代の高校生から80歳過ぎのOBまで、多彩な人々で構成され、モーツアルトのキラキラした音を響かせた。志音会メンバーにはかつての友が多数。ミニ同窓会が楽しかったのは言うまでもない。


戦争レクイエムは翌2010年ニューヨークでも公演

戦争レクイエムは翌2010年
ニューヨークでも公演

プロの厳しさと、至福の音楽との両方を最大限に味わったのは、2009年SKFでの「戦争レクイエム」。一般公募合唱団の一人になれたのだが、送られてきた楽譜を見て蒼白...。自分の出すべき音が全く想像できない。不安な中練習がスタート。指導者の要求は高度で、音程の正確さ、強弱、はもちろんのこと、「音量はピアニッシモだが、鋭い音で、2階席の一番奥まで届く声」のような表現者としての最大限を求められた。練習も終盤になり、小澤征爾さんの指揮、SKOとの音合わせになると、まずはオケの音の素晴らしさに圧倒された。それまでは、観客としてあちら側からしか聞いたことがなかった音が間近で鳴り響いている。聞き惚れている場合では全くないのだが、こんな素晴らしい音と一緒に歌っちゃっていいの?という怖れに似た感情に包まれた。マエストロの言葉の魔術にも驚かされた。指揮者は自分では何一つ音を出すわけではないのだが、どんな音を欲しているのか言葉で伝えていく。マエストロの「例え」は想像しやすく的確で、一言で音楽がガラッと変わるのを何度も目撃した。あまりに素晴らしい体験ができたので、私は「恩返ししたい」という気持ちになった。誰にというのでなく、この幸福な体験のおすそ分けをしたいという。


カルメン練習中

カルメン練習中

目下の「うた」目標は、オペラ「カルメン」。これはまつもと市民オペラの第4回の公演で12月23日に市民芸術館で上演される。前回「魔笛」の公演から約2年、今まで練習してきた成果がいよいよ舞台で結実を迎えようとしている。
(公演の詳細はこちらから


魔笛カーテンコール。パパゲーノは同窓生の太田直樹さん!Photo by 山田毅

魔笛カーテンコール。パパゲーノは同窓生の
太田直樹さん!Photo by 山田毅

今回の幸福は演出家・加藤直さんと1年以上ワークショップで舞台のイロハを学べたこと。必然があっての演技であること、自分はカルメン派なのかアンチなのかそれを決めるだけで体の向きだって変ってくる。舞台にある種の真実が持ち込めるよう、鋭意努力中である。第3回の「魔笛」は音楽会を「寝場所」と思っている息子をして「面白かった!」と言わせしめた素晴らしい舞台だった。この時も演出家白井晃さんの着想に舞台上にいる私達が一番楽しんでいたと思う。どうぞ「カルメン」もご贔屓に。
 私の「うたごころ」、幸せをみんなにおすそ分けしながら充実させていきたい。