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蜻蛉乙女(あきつおとめ)
深志同窓会

第12回 乙女の輪 子どもと本をつなぐのがわたしの仕事です

 23回 越高令子

ふるさとの松本市で子どもの本の専門店「ちいさいおうち」を開いて、今年の6月で36年になります。(松本深志高校のすぐ近くです!)本屋と言わずに、名刺やパンフレットには、いささか誇大広告ぎみの「子どもの文化情報センター」と開店当初から書いたのには、訳があります。子ども・本というキーワードで、店にはさまざまな情報をもったお客さまが、集まってきます。その中の課題をくみ取り、その分野に精通している方に繋げていくことがわたしにもできるのではと夢見て、情報センターと名づけたのです。

果たして思った通り、本当にさまざまな分野のお客さまがおいでになりました。すてきな出会いがいくつもあり、次第に自分で出来ることがはっきりしてきました。その中の一つを今日はお話しようと思います。

1993年に、長野県立こども病院が出来ました。県下初の小児医療の総合病院です。ある日、一本の電話が入りました。信大からこども病院に移られた看護婦さんからで、「令子さん、出番だよ。うちの病院に力をかしてちょうだい」と彼女は言い、わたしはその時、これは大変な出会いになると直感しました。
病院での打ち合わせの中で、まず新人の看護婦さんの研修からしましょうということになり、「本は心の栄養剤」という題で、お話させていただきました。その中で、「病気の子どもたちにも、本は必要です!そして、その本を読んでくれる大人の存在が合わせて必要です」というお話を毎年させていただきました。
わたしが、こういう内容でお話させていただく原点にあるのは、お店を開いて4年目に「クシュラの奇跡」(ドロシー・バトラー著 百々佑利子訳 のら書店)という本と出会ったことが大きく影響しています。重い障害をもって生まれたクシュラという女の子の成長に関わった数多くの絵本についての物語は、ニュージーランドの子どもの本の専門店の著者がご自身の体験に基づいて提出した大学の論文がもとになっています。
「クシュラの読んだ本が、クシュラの人生の質をどれほど高めたか(中略)読んだ本は、クシュラの人生に大勢の友だちを与えたことこそ重要である」という力強く語るバトラーさんの言葉の一つ一つが、わたしの心を深く揺り動かしました。入院中の子どもたちにも、本の楽しさを届けたい、と強く思うようになりました。
ちょうど、「松本ゾンタクラブ」という女性の奉仕団体の方たちが、子どもの本を病院に寄付してくれるという大変ありがたい話が持ち上がりました。わたしは、すぐに病院に話に行き、本の寄贈にあたり、2つの事をお願いしました。1つは、毎週病院内のプレイルームで、その本を使って読み聞かせをすることを許可してほしいということ、あと1つは病院内にさまざまなボランティアを受け入れる体制をつくって欲しいということです。また、寄贈してくれるゾンタクラブの皆さまにも、本の寄贈に関して、一度にたくさんくださるのではなく様子をみて徐々に本を選書したいので、5年間にわたり毎年の寄贈という形をとっていただけないかとお願いしました。お話ボランティアの方も、長年地域で経験を積んだすばらしいメンバーに参加してもらうことができました。今でも活動は継続し、毎週金曜日には各病棟でのお話の会が開かれています。またこの活動が認められ、5年前に伊藤忠財団より助成金をいただく事になりました。そこで、その資金をもとにして「本と子どもの発達を考える会」を立ち上げることにしました。会の活動は、特別支援学級(学校)・施設での読み聞かせ、専門家をお招きしての病児・障害児理解のための公開講座などです。
そして、近年力をいれているのは、学校巡回展 いのちの本展~みんないっしょに生きている~と題して病気や障害への理解を深める本を貸し出し、授業の時間に本の紹介をさせていただくという活動です。
2014年4月から2015年3月まで、信濃毎日新聞に「虹のブランコ」という題で、会の活動の様子を連載させていただきました。ちいさいおうちのホームページで全てご覧いただけます。http://www.chiisaiouchihon.jp/
この活動に興味をお持ちになった方は、お店においでになった折に是非お声をかけてくださいね。
「本には子どもを助ける力があります。そして、そんな本を子どもに届ける大人が必要です」

 


クシュラの奇跡

クシュラの奇跡

ちいさいおうち

ちいさいおうち