【第251号】尚学塾で遠回りの話をしました

清水(旧姓 斎藤) 龍 (47回)
グリーンフロント研究所株式会社
環境企画室 室長

 尚学塾の講師として母校に立つことになったとき、私は少し迷いました。卒業生として、いわゆる「成功談」を語るべきなのか?今回私は、別の話をすることにしました。なぜなら30年前の私は、決して順調な高校生ではなかったからです。

 「生き物が好き」ではあったものの、進路をはっきり決めず、どこか落ち着かない気持ちで日々を過ごしていた記憶があります。そんな自分が「成功談」だけを語っても、高校生の心には届かないだろうと思いました。

 高校時代の私は部活動に夢中になり、勉強とのバランスを崩していました。理系方向に進んだものの、数学や物理、化学はからっきしで、挫折感の方が強かったように思います。一方で、生物だけは昔から好きで、成績も比較的安定していました。ただ、その「好き」が将来につながるとは、当時はまったく想像していませんでした。
 大学、大学院へと進み、自分は研究者に向いていないと気づき、進路を大きく変更することになります。しかも時代は就職氷河期で、先が見えない不安ばかりが募りました。迷いながらたどり着いたのが、自然環境の調査や保全に関わる仕事です。
 研究室での経験は、現場では役立たずと思えることもありましたが、生き物を観察し、仮説を立て、試行錯誤する姿勢は、確実に今の仕事につながっていました。無駄だと思っていた経験が視点を変えた瞬間に意味を持つ。そんなことを何度も実感してきました。
 現在は自然環境コンサルタントとして働く一方で、AIを活用した複業にも取り組んでいます。一見すると無関係に見える二つの分野ですが、実際の現場では、テクノロジーやAIを使いこなせる人材が強く求められています。社会の関心は環境対策から、生物多様性の保全へと確実に移っています。その中で自然を理解し、同時にAIやITを使って「わかりやすく伝える」ことができる人材は、決して多くありません。遠回りしてきたキャリアが結果として今の立ち位置をつくっているのだと感じています。

 今回の特別授業で伝えたかったのは「完璧な進路選択は存在しない」ということです。迷いながら進むのは当たり前で、好きなことや得意なことを早い段階で切り捨てる必要はありません。「こんな生き方もアリなんだ」と少し肩の力を抜いてもらえたなら、それだけでこの授業には意味があったと思っています。

 かつて同じ教室で迷っていた一人の先輩として、この気持ちが少しでも届けば幸いです。