【第187号】市中行進、深志高生の60年安保

 昭和35(1960)年6月21日12時半、午前中の短縮授業と20分間のホームルームをすませた全校生徒1260人と全教員50人が、校庭に集合整列した。

 岡田甫校長の話、生徒会長の諸注意、校歌斉唱のあと、午後1時、整然と一糸乱れぬ長い4列縦隊が、松本市中の無言の行進を開始した。「人間愛で結ばれた美しい世の中にしてください」「民主主義を尊重する平和な社会にしてください」「安心して勉強できる明るい社会にしてください」という標語の大きな横断幕のプラカードを掲げられた。

 生徒たちは、「安保是か非か」よりもむしろ「オレ達が民主主義を形骸化しないためにはどうしたらよいのか」を論じ、6月14日には「意志表示すべし」と可決された。生徒会長が、校長宛に要望書「世の政治家 大人たちに訴える」を作成した。

 そこには、「国家の最高の話し合いの場である国会がすでに1ヶ月近く空白の状態にあり、そこでは民主々義も議会制も全然無視されているのです」、「僕たちは十何年間かの民主教育を受けてきて、一つ問題を冷静に真剣に話しあうことが如何にたいせつかを知りました」、「近頃の日本の様子を、僕たちがどれほど悲しく思っているか、僕たちがどれほど怒りにもえているかということを一度考えてみてください。僕たちの理想やあこがれが、現実の前に無残にくずれていくという事実を僕たちが悲痛な気持で眺めているということを考えてください。一日も早く僕たちが落着いた気持で勉強ができるようにしてください。政治とは僕たち一人一人の生活が少しでもよくなるということではないでしょうか」、と書かれていた。

 岡田校長は、「もし街頭に出て行動するようになっても、それが生徒全体の意志として決定されたならそれを認めよう」という意向を固めていた。

 市中行進は、2時間半の「街路にひびいた足音の大合唱だった」(この年のとんぼ祭パンフレットの生徒会長の言葉)。

 ちょうどこの6月で、60年になる。

筆者紹介 : 小松 芳郎