【第113号】小林有也の偉業を、いつまでも

「江戸を知れば東京はもっと楽しい」と謳う『江戸学』という月刊誌がある。今年の1月号(№93)の表紙には、「城を守った人々-信州松本を訪ねて-」とあって、72頁のうち、18頁にわたって特集が組まれた。松本城を守った人々のうち、市川量造(天守を有効活用して保存。現代にも通じるビジネスセンス)と、小林有也(松本への校長着任が、有也と城の運命を変えた)については、私が取材をうけて、そのインタビューが掲載されている。

有也の記事には、明治34年(1901)頃に撮影の「荒廃した松本城天守」が紹介され、深志高校同窓会所蔵であると明記されている。

この4月下旬、編集部から、読者からうれしい知らせが届いたと連絡があった。

『江戸学』を知人から見せてもらい、「城を守った人々」の記事に感動したので、在庫があれば10冊ほど送ってほしいとのこと。この方は、小林有也先生のお孫さんの一人で、有也が幼少の頃、江戸藩邸近くの渋谷の氷河神社の境内で遊んでいたことなど、父親から聞かされていたというのだ。

そして、有也のことを書いた分厚い本はあるけれど、孫たちは誰も興味をもってくれない。だから『江戸学』のようにコンパクトにまとめられていると、孫たちにも読んでもらいやすいので嬉しい、とお話されていたと、編集部の方が、電話で私に話してくれた。そして、「小林有也の偉業が、いつまでも語り継がれていってほしいですね。」と。

小林有也先生のお孫さんの「読んでもらいやすい」という言葉は重い。あらためて、井上ひさしの言葉、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに」という言葉を思い出している。

ちなみに、この本には、江戸東京博物館名誉館長の竹内誠先生が、連載している。1月号は「粋に楽しく江戸ケーション」、実に面白い。竹内先生は、大学で日本史を教えていただいた恩師である。

筆者紹介 : 小松 芳郎