【第100号】蜻蛉群像の秋

深志高校の応援歌「自治を叫びて」。その一節を「90年」と大声で歌った。半世紀前は16歳。母校の1年生だった。

体育館で行われた創立90周年記念式典を、上級生たちの肩越しに遠く眺めていた。時の赤羽誠校長は、伝統に向き合う覚悟と営みを在校生に問い、「伝統の形骸の上にのみ、いたずらにあぐらをかくことなかれ」と戒めた。

創立140周年の秋空を迎えた。明治9(1876)年、長野県に合併する直前の筑摩県にできた第十七番中学変則学校が松中・深志の始祖校である。学窓を飛び立った蜻蛉群像は30,000人を超す。

思えば、深志の3年間が後半生の心の支えだった。憧憬と未来に向かって過ごした日々。学びやに吹く自由な風が好きだった。深志生で良かった、との思いは卒業後の歳月とともに増し、あぐらをかいて過ごした自省の念は深く刻まれていまに至る。

多くの同窓生にとって母校はロマンへの回帰線であろう。「前途遥かに望む哉」と、校歌5番の歌詞をかみ締める年齢になった。軌跡を懐かしく振り返る心模様は、黄昏どきほど光彩を放つ。

若い蜻蛉たちの飛翔を願いながら、この先の道行きを楽しむとしよう。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎