【第70号】追想の日々

急逝した倉橋英太郎君。享年66。松本市内のホテルで「お別れの会」が営まれ、500人を超す参列者が哀悼の花を手向けた。

1年のホームルームで同じクラスだった。振り向いた右後方に座っていた。教室で一番まじめそうな人、に見えた。

水泳部でも一緒に過ごした。桜の花びらが集まって漂う「花筏」のプールは冷たかった。懸命に泳ぎこむ姿に、印象が少しずつ変わっていった。コンパ、合宿、冬場の走り込み…。共有した時空と記憶はかけがえがない。

建築士として走り続ける。「モダン和風」という自身の設計理念を何度も聞いた。古民家の劇的な改修例を紹介するテレビによく登場した。近代建築物の保存活用運動にも力を入れる。

水泳部同期の集まりがお盆に欠かさず開かれる。宴に揃った笑顔の写真を撮り、焼き増ししたプリントを翌年の集いで見る習わしが続いている。健康で再会する誓い。惜別の日、彼の分は喪主を務めた夫人の袂に納まった

追悼の会場を埋め尽くした顔ぶれから、活躍のフィールドの広さと、おびただしい足跡を思った。

ああ。学窓の友は減ることはあっても、決して増えることなどない。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎