【第68号】学びを紡ぐ

初夏のある日、まつもと市民芸術館で「ガラ紡コンサート」が開かれた。太糸綿糸紡績機の発明と改良に情熱を注いだ臥雲辰致(1842-1900)の足跡を学ぶ講演と、セントラル愛知交響楽団のメンバーによる室内楽だった。

辰致はいまの安曇野市堀金に生まれた。明治10(1877)年の第1回内国勧業博覧会で最高の栄誉「鳳紋褒賞牌」を受賞。紡錘と捲糸の作業工程を機械的に連結させた画期的な機械だった。「ガラ紡」の呼び名はガラガラという軽快な運転音に由来する。

辰致発明の利器は、全国有数の綿花産地だった三河地方の発展に寄与する。矢作川支流など動力となる水車に適した河川が多かったからである。のちに岡崎市名誉市民になった。

殖産興業の時代を切り開いた人は、松本地方ではあまり知られていない。「蚕都松本」を支えた蚕網織機も実は辰致の手による。

企画を主催した臥雲弘安さんは辰致直系の孫で深志8回卒。ガラ紡の存在と歴史的意義を認識してもらいたい、と願う。20回卒の小松芳郎さんは講演で「松本は蚕業革新の地。資料の掘り起こしや学習を通じて多くの人に辰致を知ってほしい」と語りかけた。

先人の功績をしのぶステージで、蜻蛉たちもまた学術の絆を紡いでいた。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎