【第60号】戦後70年

松本地方の有志や高校教諭たちでつくる「わだつみのこえ70年の会」が上原良司(松中61回)に光を当てる。全体主義の敗北を確信しながら特攻隊員として戦死した1人の学徒兵である。

昭和10(1935)年に松本中学に入学。慶應義塾大学予科から本科経済学部に進んだ。学徒出陣により陸軍特別攻撃隊員となった。3カ月後に敗戦を迎える20年5月11日、沖縄嘉手納湾上の米海軍機動部隊に突入した。22歳だった。

どんな生徒だったのだろうか。「無口で控えめ。4年の時には鉱物採集に熱中し、5年時には籠球部に所属した」と、中島博昭さん(深志4回)が『深志人物誌Ⅱ』に書いている。生徒の自治を重んじてきた母校の伝統も、国家を取り巻く時代の波濤と潮流に飲み込まれていった。

「明日は自由主義者が一人この世から去って行きます。彼の後姿は淋しいですが、心中満足で一杯です」。出撃前夜に記された「所感」の断章は、大戦と戦後を問い続けて、いまに至る。

会は8月15日の「夏の集い」を中心に、ゆかりの地を訪ねる催しなど平和と自由の尊さを考える企画を予定している。来し方に向き合う理性の視座は、行く末に責任を持つ行動の起点になると思いたい。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎