【第56号】南極物語

亡くなった映画俳優、高倉健さんが世に残した作品の1つに「南極物語」がある。カラフト犬の兄弟タロとジロが、極寒の南極で1年間を生き抜いた奇跡と感動を描いた大作として知られる。

タロ、ジロなど日本初の南極観測隊で働いたカラフト犬15匹は母校の大先輩、犬飼哲夫博士(松中37回)が「育ての親」である。北海道帝国大学教授、南極特別委員会委員を務め、犬集めと訓練、南極踏査で欠かせなかった犬ぞり隊の編成に当たった。

ジロは生存確認された翌年に死んだが、その後も南極に残ったタロは昭和36年4月に帰国。北大植物園で余生を過ごし、昭和45年8月に15歳の大往生を遂げた。

博士がタロに寄せた深い慈しみについて、元上田高校校長の細川修さん(深志11回)が『深志人物誌Ⅱ』に書いている。夏、食欲不振のタロを思いやって博士が差し出したアイスクリームを、タロはすまなそうな上目遣いでペロペロなめていたそうだ。

タロが死んだ13年後に映画化された。銀幕の中の犬たちは鳴き声と目の動き、行動やしぐさで人間の心を揺さぶる。雪と氷とブリザードの極限から生還した、たくましい命の賛歌。健さんの存在感もだが、北の大地で学術の理想を体現した人の足跡もたたえたい。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎