【第38号】春の雑感

葛の花踏みしだかれて色あたらしこの山道を行きし人あり。半世紀近くも前の母校入学式の式辞で、時の赤羽誠校長が引用した一首である。

歌人として知られた国文学者・折口信夫の作。「踏みにじられた葛の花の色が生き生きとしている。(人が稀にしか通らない)この山道を(自分より)先に通った人があるのだなあ」との大意だ。入学したばかりの身は学びの道に置き換えて聞いていた。

「本校で先生が教えるということは、生徒に希望の灯火を掲げることであり、生徒が学ぶということは自分の心に誠実さを刻むことである」。こちらは同校長の退任挨拶の一部。残響を帯びた言葉抄がいまも忘れられない。

掲げてもらった希望の灯火に手を伸ばそうとしなかった悔い。学びを通じた誠実さを刻むこともなかった。若さゆえの怠惰を恥じ入りながら熟年域に至った。

15の春の試練を経たとんぼたちが蜻蛉ケ丘に舞う。3年なんて短い。日々を大切に過ごしてほしい。世界に羽ばたくがいい。一隅を照らすもいい。少子高齢化と右肩下がり社会の展望をどう切り開くか。その戦略が求められる時代の人材になってほしいと願っている。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎

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