【第36号】カミナリ学年

西穂・独標落雷事故の遺品類が母校図書館の自習室の一角に保管されている。鋭利な刃物で切り裂かれたような登山靴、被雷による融痕をとどめて変型した水筒。ザックから帽子、硬貨に至るまで全てが悲しみに沈んだ日の証言者たちだ。

どなたが管理してくださっているのだろうか。関係の品々や保管ケースの劣化が進む。事故を伝える当時の新聞や肌着の変色はおびたしい。落雷忌は年々歳々巡るも、教職員や後輩たちは歳々年々入れ替わる。

卒業45周年の節目を迎える深志21回生が、遺品類の保管ケースを学校に寄贈する計画を練る。毎年の慰霊祭に参列している人たちから自然発生的に声が上がった。「私たちがやらなければ」「心身の余力があるうちに」。それぞれの思いを抱いて半生を経た「カミナリ学年」である。

遺族や同期生はもちろん、当時の在校生や教職員など多くの人たちにとっても大切な物品である。盛夏の慟哭から47年。在学中の11名が学校行事で命を落としたという悲劇と記憶を風化させてはいけない。遺品類を収める新しい保管ケースは校内のしかるべき場所に置かれ、日々の安全と安心を誓うよりどころになってほしいと願う。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎