【第4号】二人の表現者

上映中の映画「あなたへ」を見た。深志5回卒の映画監督降旗康男さんの手による。「故郷の海に散骨してほしい」。亡き妻が残した絵手紙と妻のふるさとへの旅を軸に、夫婦愛と出会った人の人生を紡ぎながら迷いや思いを浮かび上がらせていく。

感動作の主人公を高倉健さんが演じる。13年前、降旗さんとともに母校を訪れている。鉄道員の仕事に愚直なまでにこだわり続ける姿を描いた「鉄道員(ぽっぽや)」の特別試写会だった。

「人は何をしたか、というより、何のためにしたか、という部分が大事なのではないか」。「健さん」の渋い声が若いとんぼたちの胸に響いた。「人間が何かにこだわるところに、生きていくおかしさ、恐ろしさ、美しさがある。何かにかじりつく姿が私たちに勇気を与えてくれるのでは、と思って映画をつくっている」。こちらは降旗さんのメガホン哲学だった。

「駅STATION」「居酒屋兆治」「あ・うん」「ホタル」…。降旗さんと高倉さんは、数々の傑作を世に送り出してきた。絆の大切さにあらためて気づかされた時代。二人の表現者が発信する銀幕メッセージに背中を押される。

筆者紹介 : 伊藤 芳郎