【第247号】映画『さよなら、クロ』~尚学塾から創立150周年記念事業映画祭上映へ向けて~

雨宮 有三郎 (26回)
元(株)電通 映画プロデューサー

 卒業50周年で深志高校を訪れ、第一棟の廊下を踏みしめると、多くの思い出が蘇ります。

 1972年11月30日、校友クロは旅立ちました。

 二・三学期終始業式後の講堂で、応援団管理委員会より「クロを送る会」が催され、小原元亨校長と「クロ義援金箱」を設置した碓井広義先輩(25回生〉の送る言葉、そして、水野好清新団長の指揮により校歌斉唱を行い、全校でクロを送りました。クロが深志に居た12年間の卒業生に夫々のクロとの思い出があるように、当時2年の我々26回生にも校友クロの点景がより一層色濃く記憶に残っていると思います。同期生から卒業50周年の尚学塾で映画『さよなら、クロ』(注)を題材に講義をとの指名を頂く事に。
 (電通からのプロデューサーとして本映画製作に参加した私の役回りとでも申しましょうか)

 映画『さよなら、クロ』は、現高校生には昭和時代劇の題材でありますが、2003年完成披露試写鑑賞後に号泣していた同期生を思い出し、本映画鑑賞者の感動、本映画製作へ注がれた多くの方々の情熱を、16歳の後輩へ語り部として伝えれば講義になるかと。加えて、尚学塾発足を提案され、映画化のエンジンとなった同窓会へのご報告になればという思いで講義に取組みました。

 当日、教室の黒板には、映画公開から21年間、職員室に貼られている、色褪せた『さよなら、クロ』ポスターを奥原教頭先生が掲出され、驚きと感謝とともに講義を始めました。

 あの当時の大らかだった深志、特に自由な校風、本映画原作「職員会議に出た犬・クロ」執筆者の筑邨先生はじめ個性的な先生方、そしてクロの説明に前半を費やし、映画化の強力なエンジンとなった「クロの会」の支援力としての同窓会を強調し、終盤は映画ビジネスを畳み掛ける様に説明して、何とか講義を終えました。

 そして、クロも映画も知らなかった本映画未鑑賞の聴講生全員に、敢えて講義後、広報リリース小冊子を配布しました。

 リアルなクロから始まる映画化全貌の講義として55分はあまりにも短く、飛ばし想定で用意した動画入り資料も盛り込み過ぎで、時間配分の至らなさを痛感し反省しました。

 聴講生の皆さんの真剣な眼差しが印象に残っていますが、その中に8名の本映画鑑賞希望者がいて、少しだけほっとしました。傾聴いただけた生徒の皆さんには、心より感謝しています。

 同窓会の想いを繋ぐという意味では、同窓会から依頼されている「深志創立150周年記念第2回松本映画祭」(2026年秋)で『さよなら、クロ』上映を予定しており、来年3年生になる講座を聴講してくれた35名の皆さんをはじめ、在校生にも絶好の機会となるべく、映画本来の大スクリーンで鑑賞する楽しさを味わってもらえる様に、提案してまいりたいと考えております。

(注)映画『さよなら、クロ』(松岡錠司監督)は、1960年から12年に及ぶ深志での校友クロと生徒、職員との交流を描いた単行本(藤岡改造先生著「職員会議に出た犬・クロ」)を原作に、同窓会が発足させた「『クロの会』と製作委員会(シネカノン、電通、衛星劇場、ハピネットピクチャーズ等)」が共創で製作した2003年全国公開映画。
昨今、映画のテレビ放送減少の中、NHK BSプレミアムシネマ(ノーカット無料放送)で2015年正月リレー映画放送の元旦初回作品に選ばれ放送された。