碓井 稔(26回)
セイコーエプソン(株)元代表取締役社長・会長
現在、セイコーエプソン相談役、長野県経営者協会会長
夢を抱き、ポジティブに生きることの大切さを若い人たちに伝えたいと思い、エンジニア・経営者としての経験を、尚学塾の特別講義で語った。
技術は人々のためにあること、だからこそ、技術にかかわれることの幸せが実感できるのだと。技術開発の楽しさを伝えることに重きを置き、インクジェット技術を原理にさかのぼって、お話しした。難しいからこそ興味を持ってくれる人がいるはずだと、あえて、挑戦してみた。
塩尻の兼業農家育ちの私には、深志での生活はどこか引け目を感じるところばかりだった。そんな感覚があり、もっぱら活動の中心は塩尻郷友会(SSK)だった。そして、3年生の時には会長を務めた。通学電車内ではトランプ遊び、夏休みの初めには40Km以上の峠道を一晩かけて踏破する夜行軍、春先には肝試しなども企画した。トンボ祭では、どこよりも大きな灯篭を作ることが誇りだった。自ら決めて自ら責任をもって実行する自治、自律と自立の醍醐味を学べたことはその後の人生の大きな財産になったように思う。
そして、夢を抱いて東京に出た。しかし、どこか違和感を覚え、早々に塩尻に戻り、地元の信州精器(現セイコーエプソン)に転じて夢を追った。そこでインクジェット技術に出会い、世の中を変えるポテンシャルのある技術を作り上げるのだとの夢を抱き、技術を究め極める中で、多くの仲間とともにマイクロピエゾそしてプレシジョンコアという独創の技術・事業基盤を創り上げた
事業環境の厳しい2008年、セイコーエプソンの社長に就任し、リーマンショックや極度の円高に苦しめられたが、経営理念を再定義し、「省・小・精」の強みに立脚し、グローバルに展開する総合力を最大化し、お客様の期待を超える価値を創り出すことに集中し、危機を克服した。代表例がインクジェットプリンターのビジネスモデルの転換やコンシューマ領域からオフィスや産業領域への拡大であった。そして、インクジェットで環境にやさしい新たなものづくり基盤の創造という夢に挑戦していることなどをお話しした。
真剣に聞き入る眼差しが目に入り、気持ち良く講義を進めることがでた。質問時間も少なく、思いが伝わったのか不安が残ったが、これからの深志生に大いに期待が深まった。ひとり一人の深志生が、それぞれに充実した人生を歩んでくれることを祈念している。
そして、自治、自律と自立の醍醐味を学べたことは、その後の人生の大きな糧になっているのだと感謝している。
