岡田 純代(45回)
筑波大学附属病院 病院登録医
女性、医師、県外在住者として尚学塾の特別授業を、と指名頂いたのは2023年2月のことでした。もっと現役で社会に貢献されている適任者はあろうと抗いましたが、順風満帆な人生ではないからこそ曝け出した同年10月の尚学塾について報告します。
30年ぶりに母校を訪れ、守り育てて貰った郷土を去った申し訳なさを覚えました。同時に大切な根幹はただただ懐かしく、愛おしいものでした。
わたしの講義は、未来の人生を幸せに生きるために、をテーマにしました。心身の健康を大切に、社会を生き延びる広い見通しを持つように。
人生は平等ではありません。能力、容姿、経済力などの家庭環境、出会うひと、得るチャンス全てが異なります。苦難に対する耐久力および対応力も様々ですが、打ち勝つ力を蓄え、自分を鍛えねばなりません。愛する同級生の皆様の高校卒業後、大学入学後の経験を伺い、言葉足らずながら講義で共有させて頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。
資格の取得、専門性の確保が理系では重要と考えます。女性にはとくに、自由度が高く、体力的にも踏ん張りが利く若いうちに資格や専門分野の特性を取得するようお勧めしました。多くは、結婚後よりも妊娠出産後に大きく変化します。現在の日本の社会では未だに妊娠出産育児介護といった重圧が当然のように一方的に女性にかかることがしばしばで、心身の不調を来し、軌道修正を要することが少なくありません。
残念ながら日本社会で女性を取り巻く状況は一向に改善されません。明治昭和の話ではないのです。背景には妻が子育てや介護に、夫が職場に多くの時間を割くという、男は外、女は内、といった決断をする傾向にあるためだと分析されています。2023年のノーベル経済学賞を受賞されたゴールディン氏からは、親世代の意識改革を行わなければ、現在の労働年齢の女性の働き方の変化に追い付けないと指摘されました。われわれの世代で改革を進めなければ、少子化の進む日本で男女の別なく貴重な人材、労働力を確保することは困難です。高校生の皆様が子を持つ頃には、現在よりもっと幸せに家庭と仕事を両立できるよう、今働きかけねば、と痛感します。
健康も有限です。病や事故に遭っても、自らを守り、生きる努力は続きます。人生経験を重ねたタイミングでも方向転換は可能です。辛く苦しく、合わなければ離れて自分を守りましょう。人生を通じて自己選択権を手放してはならないとわたしは思います。あらゆる場面が選択の連続です。そしてその選択を最上のものにする努力も必要です。可能であれば働き続け、自らの収入を得続けられるために。
「虎に翼」の主人公が言いました。「わたしの幸せはわたしの力で稼ぐこと。自分がずっと学んできた世界で」と。皆様の学びと努力が皆様の力、生きる糧となるよう願っています。
校歌の最後は蜻蛉男子に栄えあれ、と締め括られます。蜻蛉女子はどうなのさ、と感じた33年前の自分は今も変わりません。一千健児の熱血を燃やす自治を叫びて、をわたしはずっと愛しています。後輩の皆様、力を蓄え、松本深志高校という聖域で信頼できる仲間を確保して、この濁世の波に漕ぎ出でてください。皆様の幸せな未来を心から願います。
